闇の喇叭 有栖川有栖

闇の喇叭 (ミステリーYA!)

闇の喇叭 (ミステリーYA!)


[ストーリー]


 3発目の原爆が京都に落ち、終戦を迎えた日本。
 ソ連支配下に置かれた北海道は日本から独立し、日本は南北に分断されていた。


 徴兵制が敷かれ、探偵行為の一切を禁じられた平世21年。
 北のスパイと思われる男が殺された。
 前後して不審な女の目撃情報が寄せられる。


 そして、北のスパイを探していた男の死。


 探偵を両親に持つ、ソラの血が騒がないわけはなかった……。




[所感]


 もう一つの戦後という大胆な舞台設定。
 そういう舞台を作るからには、その舞台でしか使えないトリックで
読者を楽しませてくるだろうと予想した。


 でも、重要なのはその点ではないと思う。
 探偵行為が禁止され、探偵狩りが行われる世界で、不遇にあえぐ探偵の生き様を描き、
推理小説に職業探偵が必要か?』という、いわゆる後期クイーン問題の一角に
作者なりの解答を見出そうとする<始まりの物語>ではないだろうか!?



[詳細]


闇の喇叭


 

動機 横山秀夫

動機 (文春文庫)

動機 (文春文庫)


[ストーリー]
 警察署内で三十冊の警察手帳が盗まれるという事件が発生した。
 くしくも、警察手帳の紛失防止の目的で、試験的に警察手帳の一括管理が
行われていた矢先の事件だった。


 ただでさえ、一括管理には反発が強く、強引にそれを提案した貝瀬は窮地に立たされていた。
 幸いにも記者発表まで2日間の猶予を与えられた貝瀬は、警察内部の犯行を疑い、
犯人とその動機について独自に調査を開始した。




[所感]
 緻密な理詰めというわけではなく、感情的に推理が飛躍していて行っている部分があるものの、
そのロジックは面白みがある。
 表題作の「動機」のみならず、「逆転の夏」なども、主人公の謎に臨む姿勢がおもしろくて読み応えがある。
 出来のいい短編集のように思う。




[詳細]
動機


 

ゲームの名は誘拐 東野圭吾

ゲームの名は誘拐

ゲームの名は誘拐


[ストーリー]
日星自動車のキャンペーンの仕事を担当していた佐久間は、
日星自動車に副社長として新しく就任した葛城の意向により、仕事を下されることになった。
酔った佐久間は葛城に直接会って話そうと彼の家を訪ねると、
葛城家からこっそり抜け出す女性を発見した。
彼女は葛城の娘の樹理と名乗り、妹と喧嘩して家を飛び出してきたという。


彼女のひょんな一言から、佐久間は狂言誘拐を仕掛けることを思いつく。
こうして佐久間は、葛城を相手に誘拐という名のゲームが始まった。




[所感]
狂言誘拐を犯人側から描き、警察の出方を伺ったり、綿密に計画を練り上げていく様子がユニークだった。
また、狂言誘拐をゲームとして捉え、自分を不当に評価した男に勝ちたいという姿勢に新鮮味を感じた。


スピーディーに展開していくので緊張感が長続きして、飽きずに最後まで読み通せのがいい。
結末はまぁ予想通りだったけど、東野圭吾の作品の中では結構当たりだったように思う。




[詳細]
ゲームの名は誘拐


 

重力ピエロ 伊坂幸太郎

重力ピエロ (新潮文庫)

重力ピエロ (新潮文庫)



[ストーリー]
仙台市内で連続する放火事件。
弟の春から、次は兄貴の会社が放火されるかもしれないと連絡を受けた泉水は、
その警告が的中したことに驚いた。
どうやら放火された場所の近くには、何者かによって描かれたグラフィティアートと英単語があるという法則性があるらしい。


癌で入院中の父と、レイプによって生まれ半分しか血のつながっていない春。
まるで探偵のように事件の法則性を紐解き、謎の核心に迫っていく……。




[所感]
遺伝子というテーマを主軸に置いた深い物語だったように思う。
そこに謎解きというサスペンスが加わり、退屈することなく読むことが出来た。
ただし、謎解きは演出という位置づけで、本質はそういう事件が起きた背景にある。
読み応えは十分にあった。




[詳細]
重力ピエロ


 

乱鴉の島 有栖川有栖

乱鴉の島

乱鴉の島


[ストーリー]
 骨休みに三重県の「鳥島」に向かった火村と有栖川は、渡船の手違いで「烏島」という孤島に辿りついてしまった。
 島には、詩人の海老原瞬と、彼を慕う者達が集っていた。
 帰りの船の目処は立たないため、ひとまず島で唯一寝泊りできる海老原の家に厄介になることになるが、彼らは闖入者を快く思っていないようだった。


 そして、クローン技術でマスコミを賑わせた藤井継介を目当てに、突如ヘリで舞い降りたIT社長の初芝は、「自分のクローンを作って欲しい」と藤井に迫った。
 藤井にクローン人間を作ってもらう目的で、こんな人里はなれた孤島で密会を開いているのではないかと初芝は語った。


 そんな二日目のある日、初芝が寝どころとしている家で、管理人の木崎が撲殺されて死んでいるのが発見された。当の初芝の姿はなく、逃走して島のどこかに潜んでいると考えられた。
 電話線も切断され、警察にも連絡できないまま、初芝の襲撃に備えて寝ずの番をする火村と有栖川。
 そして、烏たちの奇声が知らせる厳かなる夜明け。
 断崖の洞窟には烏についばまれた初芝の死体が転がっていた……。




[所感]
 クローン人間という未知の技術に想像力を膨らませ描いたユニークなミステリだったように感じた。
 しかし反面で、「殺人事件の謎」と「島に集まった人々の謎」の両方が屹立してしまい、後者にインパクトがあったため、殺人事件がおまけとして解き明かされたような形に扱われていることが残念だった。




[詳細]
乱鴉の島




 

釣りおとした大魚  A・A・フェア

釣りおとした大魚 (ハヤカワ・ミステリ 786)

釣りおとした大魚 (ハヤカワ・ミステリ 786)


[ストーリー]
クール&ラム探偵社を訪れたジャーヴィス・アーチャーは、秘書のマリリン・チェランの24時間の護衛を依頼した。
彼女は脅迫の手紙や息遣いだけの奇妙な無言電話を毎日受けているという。


この依頼を引き受けたラムは、ひそかにアーチャーを尾行している途中、 警察に尾行がばれて尋問されることになる。
なんとその夜、コールガールを斡旋を取り仕切るジャネット・ラッティを殺されたらしい。
一方、マリリンを護衛していたクールはというと、チョコレートに睡眠薬を入れられて朝までぐっすり眠っていた…。




[所感]
警察に尋問されてその場は抵当にごまかした後、後々深く突っ込まれても大丈夫なように知識を仕入れていたら、殺人事件に深く関わってしまうという構図はおもしろかった。
まさに探偵という職業らしく、事件の糸を次から次へと手繰っていくところは読み応えがある。
ガチガチの本格ミステリというわけではないが、いろんなミスリードもあっておもしろかった。





[詳細]
釣りおとした大魚

 

マラッカの海に消えた 山村美紗


[ストーリー]
夫がペナンに単身赴任になり、亜木子はマンションで
一人暮らしを始めることになった。
マンションの前の住人は、どうやらコールガールをやっていたらしく、
日夜間違い電話が掛かってきて、亜木子を悩ませた。


推理作家を目指している亜木子は、ある日、小説のネタにと
好奇心いっぱいに電話の通りナイトクラブに赴いてみる。
すると、そこで偶然夫らしき人物を目撃してしまう。
ペナンにいるはずの夫は、当然日本にいるわけがない。


しかし、翌日その人物が向かったホテルで会社の重役の死体が発見された。
それは亜木子が昔付き合っていた田岡という男の死だった。
亜木子は夫が犯人ではないかと思い、ペナンに飛んだ。




[所感]
密室あり、アリバイトリックありと、一応本格ミステリの体をなしているように思う。
しかし、偶然が折り重なりすぎていて、
物語としての違和感を感じずにはいられなかった。
まぁ。処女作としては、こんなものかなぁ…という気もするが。




[詳細]
マラッカの海に消えた